こんにちは。
ファイナンシャルプランナー(1級FP技能士)のhanaです。
株式投資向けのファンダメンタル分析(またはファンダメンタルズ分析)とは
①世界経済や国内経済の動向調査
②国内金融市場調査(金利、為替、債券等)
③証券(株式)市場調査
④産業分析
⑤企業分析
⑥株価分析
大きくわけると上記のようになり①から順に分析(マクロ→ミクロ)するファンダメンタル分析をトップダウンアプローチといい、⑥株価分析から⑤→④と上に向かって分析(ミクロ→マクロ)するファンダメンタル分析をボトムアップアプローチといいます。
株式においては、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)などが代表的な指標として使われる。
引用:ファンダメンタルズ分析(野村證券)
この記事ではファンダメンタル分析の⑤企業分析と⑥株価分析に活用できる計算方法を33個紹介します。
決算書をファンダメンタル分析に活用する方法
四季報や銘柄スクリーニングサイト等によって気になる企業を発見したとします。
さて、投資しようか、どうしようか…
こんなときの判断材料として会社の決算書があります。
会社の決算書(ファンダメンタル)から分析判断するポイントは下記3点です。
①収益性
②財務安定性
③成長性
「収益性」「財務安定性」「成長性」の3点すべてが備わっている企業かどうかを判断することがファンダメンタル分析の目的です。これより各項目を解説していきます。
企業の収益性を判断するポイント
収益性(企業が生み出した利益)を分析判断するには決算書の「損益計算書」が役立ちます。
ファンダメンタル分析に役立つ5つの利益
損益計算書からわかる利益には次の5つがあります。
①売上総利益
売上高-売上原価=売上総利益
②営業利益
売上総利益-販売費及び一般管理費=営業利益
③経常利益
営業利益±営業外損益=経常利益
④税引前当期利益
経常利益±特別損益=税引前当期利益
⑤当期利益
税引前当期利益-法人税等=当期利益
上記利益のうち「営業利益」「経常利益」「当期利益」の3つがファンダメンタル分析において特に重要ですのでしっかり利益(プラス)で計上されているか確認しましょう
収益性を他社比較にもちいる場合
損益計算書から5つの利益を把握しただけでは「その数値が良いのか、悪いのか」を判断するには不十分です。
理由は企業の業務内容によって利益構造が大幅に異なるからです。
そのため自動車などの輸送用機器や情報通信業、小売業などの業種別(さらに狭めて当該企業と同様の事業形態の会社間)で比較して数値を判断することがファンダメンタル分析において重要です。
比較のさい利益金額で判断すると企業(事業)規模で大きく差が出てしまいますので割合(率)で比較すると効果的です。
①売上高総利益率
売上総利益÷売上高×100=売上高総利益率
②売上高営業利益率
営業利益÷売上高×100=売上高営業利益率
③売上高経常利益率
経常利益÷売上高×100=売上高経常利益率
同業他社の各種利益率と比較することで投資を検討している企業の収益性が良いのか悪いのかを判断することができます
損益計算書の見方や計算方法について詳しく解説している記事です
グローバルな比較をする場合
同業種の外国企業と比較したい場合は日本と諸外国との税制や金利の違い等を考慮したファンダメンタル分析が必要です。
そんな場合に活用できるのがEBITDAです。
EBITDAの計算式
営業利益+減価償却費=EBITDA
上記の計算によって税金や金利の支払い前、減価償却費を控除する前の償却前利益を求めることができます。
EV/EBITDA倍率
EV÷EBITDA=EV/EBITDA倍率
※EV(企業価値)=時価総額+有利子負債-現預金
EV/EBITDA倍率をみることで当該企業買収後にEBITDA(キャッシュベース利益)何年分でEV(企業価値)を回収できるのかを判断することが可能です。
企業の財務安定性を判断するポイント
財務安定性(財務基盤)を判断するには決算書の「貸借対照表」と「キャッシュフロー計算書」が有効です。
資産状況でみるファンダメンタル分析
貸借対照表(BS表)とは左側に資産(流動資産、固定資産)、右側に負債(流動負債、固定負債)と純資産で構成される会社の資産状況がわかる資料のことです。
貸借貸借表で把握できる財務安定性の評価指標を7つ紹介します。
①自己資本比率
自己資本(純資産)÷総資本(負債+純資産)×100=自己資本比率
※40%以上あれば優良水準(ただし業種で異なる)
②流動比率
流動資産÷流動負債×100=流動比率
※150%以上が目安
③当座比率
当座資産÷流動負債×100=当座比率
※当座資産とは流動資産のうち現預金や受取手形、売掛金などの換金が容易な資産のこと
※80%未満は要注意
④固定比率
固定資産÷自己資本(純資産)×100=固定比率
※100%~120%以内が目安
⑤固定長期適合率
固定資産÷(自己資本+固定負債)×100=固定長期適合率
※100%以内が目安
⑥負債比率
負債(流動負債+固定負債)÷自己資本(純資産)×100=負債比率
※100%以下が目安
⑦有利子負債比率
有利子負債÷自己資本(純資産)×100=有利子負債比率
※有利子負債とは金融機関からの借入金のように返済時に利息をつけて返す必要がある負債のこと
※100%以下が目安
貸借対照表の見方や各比率の目安を詳細に解説していますので、ファンダメンタル分析の参考にご参照ください
キャッシュ(現金)でみるファンダメンタル分析
企業の事業活動によるキャッシュフロー(お金の流れ)を把握することで当該企業の財務状況や成長性に関するファンダメンタル分析が可能です。
キャッシュフロー計算書の構成
①営業活動によるキャッシュフロー(本業によるお金の増減)
②投資活動によるキャッシュフロー(設備投資等の事業拡大に費やしたお金の増減)
③財務活動によるキャッシュフロー(借入金などの財務に関するお金の増減)
フリーキャッシュフロー
営業CF-投資CF=フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローがプラスであれば、余剰資金で内部留保の強化や借入金返済による財務体質の改善が可能なことがわかりますので、ファンダメンタル分析においてフリーキャッシュフローの状態は大事な判断基準の一つと言えます。
キャッシュフロー計算書の各項目を詳細に解説している記事です
金融費用の支払い能力でみるファンダメンタル分析
企業の借入金等の支払い能力から財務安定性をみるファンダメンタル分析にインタレストカバレッジレシオがあります。
インタレストカバレッジレシオ
事業利益÷金融費用=インタレストカバレッジレシオ
※事業利益=営業利益+受取利息+受取配当+有価証券利息
※金融費用=支払利息+割引料+社債利息
企業の成長性を判断するポイント
ファンダメンタル分析で企業の成長性を判断するために「資本効率」「利益と損失の分岐点」「企業が生み出す付加価値」の3点から検討できるファンダメンタル指標を紹介します。
資本効率でみるファンダメンタル分析
資本(自己資本や総資本)を効率よく活用して利益を生み出しているかどうかは企業のファンダメンタル分析において重要です。
①ROA(総資本利益率)
当期利益÷総資本×100=ROA(総資本利益率)
総資本とは自己資本と他人資本の合計のことで、貸借対照表の負債と純資産の合計と一致します。
ROAは高いほど好ましいと判断され5%以上あることが優良企業の目安と考えられています。
②ROE(自己資本利益率)
当期利益÷自己資本×100=ROE(自己資本利益率)
一般的にROEを計算するときの自己資本は純資産から新株予約権と少数株主持分を除外して計算します。
ROAもROEも資本効率をみるうえで重要な指標ですが、投資家の多くは出資分にあたる自己資本で計算するROEをより重要視しています。
業種によって数値の出方に違いがありますが一般的に10%以上あることが優良企業の目安と考えられています。
ROAとROEはさらに指標を分解してファンダメンタル分析をすることが可能です。計算方法を解説していますので、ぜひご参照ください
③サスティナブル成長率
ROE×(1-配当性向)=サスティナブル成長率
配当性向とは企業の税引き後利益から配当金にまわした割合のことですので、(1-配当性向)とは企業が社内に蓄えた内部留保率になります。
サスティナブル成長率を計算することで企業が内部留保のみを事業に再投資した場合の成長率(企業価値)を判断することが可能です。
利益と損失の構成でみるファンダメンタル分析
企業の成長性を判断するうえで「いくら以上の売上」を達成したら利益になるのか、とう損益分岐点を知ることはファンダメンタル分析において重要です。
損益分岐点とは売上と費用が等しくなる売上高のことで、言いかえると損益がプラマイゼロになる金額のことです。
損益分岐点の計算式
固定費÷(1-(変動費÷売上高))=損益分岐点
上記で計算した損益分岐点を売上が上回れば利益、下回れば損失ということになりますので数値は低いほど好ましいと考えられています。
投資を検討している企業の損益分岐点が低ければ利益を計上しやすい(黒字になりやすい)ことから成長性があると判断できますし、また損失が発生しにくい点に注目すると安全性が高いと捉えることもできます。
損益分岐点のさらに詳細な計算や固定費や変動費の説明、限界利益という項目についても解説していますので、ぜひご参照ください
付加価値から成長性を判断する方法
企業が生み出す付加価値(商品や製品に付加した価値)がどれくらいあるのか、を知ることは企業の成長性を判断するうえで大事な指標となります。
①付加価値額
売上高-外部購入費=付加価値額
②付加価値率
付加価値額÷売上高=付加価値率
③労働生産性
付加価値額÷従業員数=労働生産性
労働生産性はさらに分解して各指標を分析することができます。計算方法を解説していますのでぜひご参照ください
ファンダメンタル分析で株価を判断する方法
ファンダメンタル分析で株式の投資判断をするには株価と「利益の関係」「純資産の関係」「キャッシュフローの関係」「配当の関係」の4つの視点でみるファンダメンタル分析が有効です。
株価と利益の関係
株価と利益の関係はPER(株価収益率)で求めることができます。
PERを計算することで株価が一株当たり利益の何倍まで買われているのかを知ることができます。
PERの計算式
企業の時価総額÷当期利益=PER(倍)
または
株価÷一株当たり利益(EPS)=PER(倍)
一株当たり利益(EPS)は損益計算書の当期利益を企業の発行済み株式数でわることで求めることができます。
当期利益÷発行済み株式数=一株当たり利益(EPS)
PER計算例:当期利益8,000万円、発行済み株式数200万株、株価560円の場合
8,000万円÷200万株=40円(一株当たり利益)
560円÷40円=14倍(PER)
PERの数値は低ければ割安、高ければ割高と考えられ投資判断においては低いほうが好ましいと「原則として」考えられています。
「原則として」と記載した理由はPERが低い場合、低いなりの原因があるケースが存在するからです。例えば今後成長性が期待できないと多くの投資家が判断した結果、PERが低いまま放置されている場合や単年度限定の特別利益などを計上したことで当期利益が高かっただけの場合などです。
それともう一つお伝えしたいのがPERが高い場合、利益に対する株価の面で言えば確かに割高と判断しても間違いではないのですが「イコール買ってはいけないという意味ではない」ということです。
PERが高い状態にあるとは、それだけ当該企業の利益に対して株が買われているということですので、人気があるといえます。
人気の原因は個別銘柄によって様々ですが、原因の一つとして今後の成長性が大いに期待されている場合があります。そういった場合であれば来期以降の利益の増加によってPERの水準も訂正されるので現時点では割高であっても十分投資対象になりえます。
PERというのは、あくまでも現時点での株価と利益の関係にすぎない点はファンダメンタル分析においても大事なポイントですのでぜひ押さえておいてください。
株価と純資産の関係
株価と純資産の関係はPBR(株価純資産倍率)で求めることができます。
PBRでは株価が一株当たり純資産の何倍まで買われているのかを知ることができます。
PBRの計算式
株価÷一株当たり純資産(BPS)=PBR(倍)
一株当たり純資産(BPS)は株主資本である純資産を発行済み株式数でわることで求めることができます。
PBR計算例:純資産(株主資本)2億2,000万円、発行済み株式数100万株、株価198円の場合
2億2,000万円÷100万株=220円(一株当たり純資産)
198円÷220円=0.9倍(PBR)
PBRもPER同様、低ければ割安、高ければ割高と考えられていますが、低いには低いなりの、高いには高いなりの理由がありますので銘柄判断のさいはその点までしっかりファンダメンタル分析をして判断するようにしましょう。
株価とキャッシュフローの関係
株価とキャッシュフローの関係はPCFR(株価キャッシュフロー倍率)で求めることができます。
PCFRでは株価が一株当たりキャッシュフローの何倍まで買われているのかを知ることができます。
PCFRの計算式
株価÷一株当たりキャッシュフロー=PCFR(倍)
一株当たりキャッシュフローの計算方法は2通りあります。
①営業キャッシュフロー÷発行済み株式数
②(当期利益+減価償却費)÷発行済み株式数
PCFRも数値が低いほど割安、高いほど割高と判断されますが、銘柄検討のさいは、なぜ数値が低いのか(または高いのか)といった原因までファンダメンタル分析をして判断しましょう。
株価と配当金の関係
株価と配当金の関係から判断するファンダメンタル分析には「配当利回り」と「配当割引モデル」があります。
①配当利回り
一株当たり配当金÷株価×100=配当利回り
配当利回りは株価が上がると低くなり株価が下がると高くなりますので株価に対する利回りは絶えず変動することになります。
購入時は同業他社の配当利回りや他の金融商品と比較するなどして検討するようにしましょう。
②配当割引モデル(ゼロ成長配当モデル)
これは投資家が期待(要求)する収益率と予想配当金から理論株価を計算するものです。
予想される配当金÷期待収益率=理論株価
例:投資家の期待(要求)収益率が10%、予想配当金が50円(毎年50円で固定)の場合
50円÷10%=500円
この場合現在の株価が500円より高ければ投資を控えたり、安ければ投資を実行したり、というふうに判断することや目安として検討することができます。
配当割引モデルの定率成長モデル(配当金が一定率で成長)の計算例などを解説しています
ファンダメンタル分析の効果的な使い方
この記事では株式投資のファンダメンタル分析をつかって企業価値と株価を判断する方法を紹介しました。
紹介した計算式のすべてを銘柄一つ一つに活用するのは時間的な制約など個人個人の事情によっては大変な面もあるかと思いますので、ご自身の投資スタイルに合うファンダメンタル分析を上手く組み合わせて利用していただけたら幸いです。
さいごにお伝えしたいのは、銘柄分析のさいは投資を検討している企業のファンダメンタル(収益性、財務安定性、成長性など)を当該企業の過去の数値(前期、前々期、過去数年間など)と比較することや同業他社の数値と比較することが投資可否を判断するうえで重要です。
ファンダメンタル分析を活用して有意義な株式投資となるよう頑張ってください!